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2012年03月06日
記念すべき1回目のコラムに何を書こうかと悩みましたが、つい先日経験したことを書くことにしました。
このサイトに載せる情報を、各ギャラリーやカフェ、飲食店にお願いして回っていたときのことです。
その店の存在は、ずいぶん前から知っていました。
何度も店の前を通り、でもなんとなく入らないままでした。
このサイトを始めるにあたって、多くの店に参加して欲しいという気持ちが後押しして、私はその店に初めて足を踏み入れました。
器、カトラリー、鍋や調理器具。店内には店主の選んだものが心地よく並べられていました。中には、控えめに説明する紙が添えられたものも。
ギャラリー?雑貨店?器屋さん?どれに当てはまるかはわからないけれど、この店の紹介がしたい。
そう思って店主に話をすると、店主はこう言いました。
「あなたを悪いと言うわけじゃないけど、インターネットもテレビも雑誌も一部分だけを切り取ったものなのに、それが全てだと思われるのって、嫌じゃない?」
ガイドブックやマップを見て、そのルートを辿るだけの旅。それって面白いの?と言われてハッとしました。
もちろんそこに掲載されている情報が全てではない。でも見方によってはそれが全てに思えるように作られていることも否定できない。おそらく長く店を続ける中で、そう感じることが何度もあったのだろうと思いました。
「じゃあ結構です」ということはできても、そう言うにはもったいないと思うような場所でした。
「おっしゃることはわかります。でも…」と話をしても、ちょっと困ったような表情で、でも店主は首を縦に振りませんでした。
そこへ、お客さんが来ました。少し慌てて「じゃあ、また改めて…」と帰ろうとした私に「せっかくだから奥も見てく?」と店主が言ってくれました。
その言葉に促され、靴を脱ぎ奥に進むと、そこはよく言う「古き良き昭和」の空間。
天井や壁には剥がれてきたのかところどころ和紙があてがわれ、その和紙も古びた色合いになり、優しい雰囲気を生み出しています。
セレクトされた陶製の鍋。木のおたまやしゃもじ。文机の前にはふわふわの毛並みの猫が気持ちよさそうに眠っていました。
窓からはやわらかい光が差し込み、「おばあちゃんの家」を思い出しました。でもここよりもっと暗くて寒かったな。
ふと、「ね、いいでしょう」と店主の声がしました。
目の前にいる人に「いいでしょう」と自信を持って言えるような空間。
ああ、この空間は20数年かけて店主が作ってきたものなんだ。
敬意を込めて、私は言いました。「また来ます」
ちょっと負け惜しみっぽく「友達には勧めます」と付け加えて。
初めて入るお店は、ちょっとドキドキ
松本のまちを歩くと、きっと楽しい発見がいっぱいあるはずです。
このサイトにあるギャラリーも、カフェや飲食店も、実際に足を運ぶとまた新しい魅力が見つかると思います。
見て、聞いて、感じて、触れて。
皆さんの「まち歩き」が楽しく、素敵なものになりますように。